著作物の利用〔EXPLOITATION OF WORK〕

著作物等の「利用」
著作者と著作権者
著作権の発生時期
著作物の利用形態の全体像
引用
権利者不明等著作物等に係る国の裁定

 

著作物等の「利用」
 「著作物等」とは、本稿においては、おおむね、「著作物」と「実演」を指しています(「著作物」、「実演」のほかに、レコード(CDなど)、放送、有線放送などがある(著作権法第2条第1項第5号、第8号、第9号の2)。
 「著作物」には、小説、論文、講演、音楽、美術、映画、コンピュータ・プログラム、データベースなどがある(著作権法第2条第1項第2号、第10号の2、第10号の3)。
 「実演」には、歌手の歌唱、演奏、俳優の演技、演舞などがある(著作権法第2条第1項第3号)。
 これらの著作物等の「利用」には、 出版、CDやDVDの製作販売、インターネット配信(著作権法第2条第1項第7号の2、第9号の4、第9号の5)や論文執筆の際の先行研究の引用、小中高校等でのグループワーク等の際の成果物等への根拠となった文献の提示など多様なものがある。
著作者と著作権者
 「著作者」は、著作物を創作した人である(著作権法第2条第1項第2号)。
 一方で、「著作権者」は、著作権という財産権(「著作財産権」)を持っている人である。これを権利者ともいう。著作物を創作した当初は、著作者と著作権者は同一の人となるが、契約や遺言により財産権をほかの人に譲渡したりした場合は、著作者と著作権者は別々となる。
 なお、著作権のうち財産権は、一部又は全部を譲渡したり相続したりすることができるが、著作者の人格に係る部分、たとえば、著作者本人の著作物の内容やタイトルを本人に無断で改変されることにより、著作者が精神的に傷ついたり、社会的に辱められたりすることがあってはならないため、この「著作者の人格に係る部分」(これを「著作者人格権」といいます。)は、著作者の一身に専属し、これを譲渡することはできない(著作権法第59条)。
著作権の発生時期
 我が国が加盟している、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」)等の国際規範により、著作権は、著作物の創作等と同時に自動的に発生する。このため、著作権という権利を得るための著作権登録といった制度は存在しない(ベルヌ条約第5条(2)「 (1)の権利の共有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は、著作物の本国における保護の存在にかかわらない。」/著作権法第17条第2項「著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。」)。
 つまり、特許権が、様式のチェック(方式審査)と、特許審査官による審査(実体審査)が行われ、審査を通過したもののみが特許査定を受け、設定登録されて特許の権利を取得することとなるのとは、著作権は全く異なる。

 著作権法第75条から第78条の2に定める「登録」とは、実名の登録、第一発行年月日の登録、プログラム著作物の創作年月日の登録といった著作権に関する事実の公示や、著作財産権が移転した場合の登録など(これには、自分の著作物を出版してもらうため、出版社との間で出版契約を行い、併せて国(文化庁長官)に対し出版権設定登録を行うことなども含まれる。)、第三者対抗要件のために措置された制度をいう。実名の登録は、かつてペンネームで執筆・公表したした作品が自分のものであることを、実名を公示(官報に掲載)することで、この作品の著作財産権を遺言により譲渡しようとする際に活用することができる。
著作物の利用形態の全体像
 著作物の利用形態の全体像は、おおまかに次のようになる。
(1) 著作権者から著作物の利用について許諾を受ける。
(2) 出版権の設定を受ける。
(3) 著作権の譲渡を受ける。
(4) 国(文化庁長官)の裁定を受ける。

 「(2) 出版権の設定を受ける。」及び「(3) 著作権の譲渡を受ける。」については、「著作権の発生時期」の項で簡単に触れた。

 「(1) 著作権者から著作物の利用について許諾を受ける。」については、次の項「引用」で扱う。
 「(4) 国(文化庁長官)の裁定を受ける。」については、次の項以降で扱う。
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引用
  他人の著作物を利用するには、原則として、「著作権者」や「著作隣接権者」の許諾を得る(契約による利用料の支払いなど)必要がある(著作権法第63条)。例外的に許諾が必要でない場合もあるが、自分の著作物に他人の作品中、あるページの数行を利用したいなどの際には、その他人の作品の該当する個所について「出所を明示」(著作権法第48条)したうえで、他人の作品であることが誰にでもわかるように「引用」(著作権法第32条第1項など)する。
 例外的に許諾が必要でない場合には、憲法その他の法令(著作権法第13条第1号)、国や地方公共団体の刊行物(著作権法第13条第4号)、などがある。
 公表された著作物は、引用して利用することができます。たとえば、報道ではいろいろな著作物を引用し、視聴者に伝えている。評論も引用しながらなされる。研究者等の論文も同様である。これらの引用については、「出所を明示」することで、論述の根拠を明確にすることができる。

 「許諾を得る」、「出所を明示」、「出典の明示」、「引用」、「盗用」、「著作権法違反」等については、「研究活動不正行為への対応」(文部科学省, 2014-8-26, p.10.)、『科学の健全な発展のために』(日本学術振興会, 2015-3-31, p.50,p. 71-74.)などにおいて示されている。

「引用」については、次のコンテンツ(引用〔QUOTATION〕)で、より詳しく扱っている。

 さて、ある著作物を利用したいけれども、権利者が分からなかったり、権利者が所在不明で、権利者に接触することが困難な場合がある。これをどのように解決するか、次の項で述べる。
権利者不明等著作物等に係る国の裁定
  この裁定制度は、次の3種類の裁定があります。
(1) 著作権者不明等の場合の裁定(著作権法第67条、第67条の2)
(2) 著作物の放送についての裁定(著作権法第68条)
(3) 商業用レコードへの録音等についての裁定(著作権法第69条)

 本項では著作権者不明等の場合の裁定について、その要旨を述べる。この裁定は「強制許諾」と呼ばれる制度で、著作権者の許諾を得られずとも国が社会公益上の見地から著作権者に代わり許諾を与えるものである。
 前述のように、他人の著作物、実演(歌手の歌唱、演奏、俳優の演技等)、レコード(CD等)、放送又は有線放送を利用(出版、DVD販売、インターネット配信、劣化が進んでいる著作物の修復・保存、マイクロフィルム・デジタル化、デジタルアーカイブでの公開等)する場合には、原則として、「著作権者」や「著作隣接権者」の許諾(著作権法第63条)を得ることが必要になる。しかし、許諾を得ようとしても著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができないことがある。このような場合に、権利者の許諾を得る代わりに国(文化庁長官)の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより、適法に利用することを可能にする制度が、著作権者不明等の場合の裁定である。
 この裁定制度には、著作物という我が国の文化的所産を守りながら、これらを後世に伝達することで、文化の発展に寄与したいという思いがこめられている。

権利者不明等著作物等に係る国の裁定を含む裁定制度については、次のコンテンツ(裁定による著作物の利用〔EXPLOITATION OF A WORK BASED ON A COMPULSORY LICENSE〕)で、より詳しく扱っている。
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 著作権は身近な制度ですが、著作物利用についての基礎的な考えをお持ちでないがゆえのご相談が多数あります。作品や作者に対して敬意を払い、そのうえで「著作物を利用させていただく」という気持ちをもつことが肝要と考えております。
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