著作権法における「引用」関連規定
研究活動不正行為への対応に関するガイドライン
科学の健全な発展のために
学会研究論文執筆要項等における「文献の引用」の取扱い基準例
「引用」について、「文教政策解説〔COMMENTARY〕 › 著作物の利用〔EXPLOITATION OF WORK〕› 引用」で述べたが、本項では、やや詳しく取り扱う。
- 著作権法における「引用」関連規定
- 他人の著作物を利用するには、原則として、「著作権者」や「著作隣接権者」の許諾を得る(契約による利用料の支払いなど)必要がある(著作権法第63条)。例外的に許諾が必要でない場合もあるが、自分の著作物に他人の作品中、あるページの数行を利用したいなどの際には、その他人の作品の該当する個所について「出所を明示」(著作権法第48条)したうえで、他人の作品であることが誰にでもわかるように「引用」(著作権法第32条第1項など)する。
例外的に許諾が必要でない場合には、憲法その他の法令(著作権法第13条第1号)、国や地方公共団体の刊行物(著作権法第13条第4号)、などがある。
公表された著作物は、引用して利用することができる。たとえば、報道ではいろいろな著作物を引用し、視聴者に伝えている。評論も引用しながらなされる。研究者等の論文も同様でである。これらの引用については、「出所を明示」することで、論述の根拠を明確にすることができるというメリットがある。
「許諾を得る」、「出所を明示」、「出典の明示」、「引用」、「盗用」、「著作権法違反」等については、「研究活動不正行為への対応に関するガイドライン」(2014年(平成26年)8月26日、文部科学大臣決定)(文部科学省, 2014-8-26, p.10.)、『科学の健全な発展のために』(日本学術振興会, 2015-3-31, p.50,p. 71-74.)などにおいて示されている。
- 研究活動不正行為への対応に関するガイドライン
- 文部科学省が定めている「研究活動不正行為への対応に関するガイドライン」は、他者の研究成果等の盗用について、また、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップなどについて触れている。ここで、不適切なオーサーシップとは、当該論文を執筆していない者(たとえば、自分の恩師、博士号請求論文の主査や副査の氏名、当該分野の情報提供者等)を共同執筆者として発表したりすることを指す。
ここでは、ガイドラインの一部を抜粋して紹介する。
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研究活動における不正行為とは、研究者倫理に背馳(はいち)し、上記1(研究活動)及び2(研究成果の発表)において、その本質ないし本来の趣旨を歪(ゆが)め、科学コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為にほかならない。具体的には、得られたデータや結果の捏造(ねつぞう)、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用が、不正行為に該当する。
(略)・・・論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップなどが不正行為として認識されるようになってきている。
(略)例えば「二重投稿」については、・・・論文及び学術誌の原著性を損ない、論文の著作権の帰属に関する問題や研究実績の不当な水増しにもつながり得る研究者倫理に反する行為として、多くの学協会や学術誌の投稿規程等において禁止されている。
(「研究活動不正行為への対応に関するガイドライン」文部科学省, 2014-8-26, p.4.)
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- 科学の健全な発展のために
- 『科学の健全な発展のために』は、独立行政法人日本学術振興会が、「-誠実な科学者の心得-」として公表しているものである。文部科学省の「研究活動不正行為への対応に関するガイドライン」と比べると、より具体的である。その一部を抜粋して紹介する。
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5.3 盗用の例
著者の発表した研究は著者のオリジナルであり、その内容である情報、アイデア、文章は、著者自身のものであることを前提にしています。この信頼を裏切る行為が「盗用(plagiarism)」です。盗用はオーサーシップの偽りの一つですが、「誠実さ(honesty)」という科学者個人の倫理的資質の欠如を意味するもので、重大な職業倫理違反行為でもあります。また、盗用は著作権法違反として処罰されることもあります。
5.4 出典の明示
他人の研究成果を利用するためには、出典先を明示し、読者がその出典先をあたれるようにしなければなりません。出典を示すことなく、他人の研究成果を利用することは盗用にあたります。
出典を示すにあたっては、どの部分が著者によるもので、どの部分が他の科学者によるものか、明確に示さなければなりません。(以下略。)
5.3.1 引用について
(冒頭部分略)
下記の要件を満たせば著作権者の了解を得ずに引用してよいと考えられます。
①引用する著作物がすでに公表されたものであること(ウェブ上の公開なども含む)
②引用する必然性があること(自説の補強などのために他人の著作物を使用するなど)
③引用にあたる部分を明確に示してあること(引用部分を括弧で括ったり、書体を変えるなど、自分の著作物ではないことを明示する)
④引用する著作物を許可なく改変しないこと
⑤自分の著作物が主たる部分で、引用部分は従たるものであること
⑥出典を明記すること
これらの要件を満たさずに他の著作物を利用した場合、著作権違反になるだけでなく、研究不正行為として盗用とみなされることがあるので、十分な注意が必要です。
(『科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-』日本学術振興会, 2015-3-31, p.49-50.)
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- 学会研究論文執筆要項等における「文献の引用」の取扱い基準例
- ■日本社会心理学会執筆要項(抜粋)
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6. 本文中における文献の引用
本文中では、著者名と出版年を示す。なお、区切りの記号としてはテンではなく、コンマを用いる。
文頭の例:
南 (1957) は...
Newcomb (1954) によれば...
Newcomb (1954) argued ...
文末の例:
...が報告されている(南, 1957)。
...といわれている(Newcomb, 1954)。
... suggested ...(Newcomb, 1954) .
ただし、混同の恐れがあるときは、名あるいはイニシャルを付す。
文頭の例:
南 博 (1957) は...
T. M. Newcomb (1954) によれば...
T. M. Newcomb (1954) argued ...
文末の例:
...が報告されている(南 博, 1957)。
...といわれている(Newcomb, T. M., 1954)。
... suggested ...(Newcomb, T. M., 1954) .
共著の場合は引用ごとに両著者の姓を書く。 著者姓の間は、日本文中の日本語では中黒 (・)、英語では “&”、また英文中では、and で結ぶ。
文頭の例:
田中・松山 (1955) は...
Persons & Shils (1951) は...
Persons and Shils (1951) were ...
文末の例:
...した(田中・松山, 1955)。
...した(Persons & Shils, 1951)。
... suggested ...(Persons & Shils, 1951) .
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- ■MLA HANDBOOK
MLA HANDBOOK は、学術論文の書式や引用のルール、剽窃の避け方などをまとめた手引書であり、著作者は、The Modern Language Association of America である。ここでは、“MLA handbook Eighth edition,The Modern Language Association of America, 2016”における「引用」に関する部分の一部を抜粋して紹介する。
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1.3.2 PROSE
If a prose quotation runs no more than four lines and requires no special emphasis, put it in quotation marks and incorporate it into the text.
"It was the best of times, it was the worst of times," wrote Charles Dickens of the eighteenth century.
(筆者注:引用文が4行程度で、さほど強調の必要のない場合は、本文中に組み込む。その際のルールを示している。)
Joseph Conrad writes of the company manager in Heart of Darkness, "He was obeyed, yet he inspired neither love nor fear,nor even respect."
(筆者注:はじめに自分の文章があり、後半の" "の中に引用する語句を入れる例である。)
If a quotation ending a sentence requires a parenthetical reference, place the sentence period after the reference.
For Charles Dickens the eighteenth century was both "the best oftimes" and "the worst of times"(35).
(筆者注:自分の文章の後半に" "で囲んだ引用する語句があり、この引用には出典を明示する必要がある場合の例である。文章の末尾の(35)は、この論文の最後に「引用文献」として明示するリストの番号である。)
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"MLA handbook", Eighth edition,The Modern LanguageAssociation of America, 2016, p.75-76.
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