我が国の地理的表示保護制度は、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(酒類の地理的表示、財務省(国税庁 課税部 酒税課)所管)、及び、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(特定農林水産物の地理的表示、農林水産省輸出・国際局知的財産課所管)、から成り立っています。
- 我が国の地理的表示保護制度(根拠法)
- (1) 酒類の地理的表示(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律)
(2) 特定農林水産物の地理的表示(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律)
- 酒類の地理的表示保護制度の概要
- 酒類に係る地理的表示は、地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進する制度となっています。国税庁によれば、「お酒にその産地ならではの特性が確立されており、産地からの申立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができるので、産地にとっては、地域ブランド確立による「他の製品との差別化」、消費者にとっては、一定の品質が確保されていることによる「信頼性の向上」という効果がある」、としています。
- 酒類の地理的表示保護制度の根拠法令
- 酒類の地理的表示保護制度の根拠となる法律は、
「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6第1項」
となります。次に該当部分をご紹介します。
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酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律
(酒類の表示の基準)
第八十六条の六 財務大臣は、前条に規定するもののほか、酒類の取引の円滑な運行及び消費者の利益に資するため酒類の表示の適正化を図る必要があると認めるときは、酒類の製法、品質その他の政令で定める事項の表示につき、酒類製造業者又は酒類販売業者が遵守すべき必要な基準を定めることができる。
2 財務大臣は、前項の規定により酒類の表示の基準を定めたときは、遅滞なく、これを告示しなければならない。
3 財務大臣は、第一項の規定により定められた酒類の表示の基準を遵守しない酒類製造業者又は酒類販売業者があるときは、その者に対し、その基準を遵守すべき旨の指示をすることができる。
4 財務大臣は、前項の指示に従わない酒類製造業者又は酒類販売業者があるときは、その旨を公表することができる。
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法律で定められているのはここまでで、具体的な事柄については、告示により対応されています。その告示とは、
「酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月30日国税庁告示第19号)」
です。
次の項より、この告示のなかから、用語の定義、地理的表示の指定、に関する部分についてご紹介します。
- 用語の定義
- 酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月30日国税庁告示第19号)における表示基準第1項には、地理的表示に関する基準で使用する用語の定義が定められています。
第1号「酒類」:酒税法(昭和28年法律第6号)第2条第1項に規定する酒類
第2号「酒類の品目」:酒税法第3条第7号から第23号までに掲げる酒類の区分
第3号「地理的表示」:酒類に関し、その確立した品質、社会的評価又はその他の特性(以下「酒類の特性」という。)が当該酒類の地理的な産地に主として帰せられる場合において、当該酒類が世界貿易機関の加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を産地とするものであることを特定する表示であって、次の掲げるもの
イ 国税庁長官が指定するもの
ロ 日本国以外の世界貿易機関の加盟国において保護されるもの
第4号「酒類区分」:ぶどう酒、蒸留酒、清酒又はその他の種類
第5号「ぶどう酒」:酒類の品目のうち、果実酒及び甘味果実酒であって、原料とする果実がぶどうのみのもの
第6号「蒸留酒」:酒類の品目のうち、連続式蒸留しょうちゅう、単式蒸留しょうちゅう、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール及びスピリッツ
第7号「清酒」:酒類の品目のうち、清酒
第8号「その他の酒類」:「ぶどう酒」、「蒸留酒」及び「清酒」以外の種類
第9号「使用」:酒類製造業者又は酒類販売業者が行う行為で、次に掲げる行為
イ 酒類の容器又は包装に地理的表示を付する行為
ロ 酒類の容器又は包装に地理的表示を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
ハ 酒類に関する広告、価格表又は取引書類に地理的表示を付して展示し、又は頒布する行為
- 地理的表示の指定
- 地理的表示の指定に関しては、酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月30日国税庁告示第19号)における表示基準第2項に明記されています。それを次に記します。
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(地理的表示の指定)
2 国税庁長官は、酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であり、かつ、その酒類の特性を維持するための管理が行われていると認められるときには、次の各号に掲げる事項(以下「生産基準」という。)、名称、産地の範囲及び酒類区分を前項第3号イに掲げる地理的表示として指定することができる。
第1号 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項
第2号 酒類の原料及び製法に関する事項
第3号 酒類の特性を維持するための管理に関する事項
第4号 酒類の品目に関する事項
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しかしながら、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律第86条の6第1項」において、その具体的な事項を「酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月30日国税庁告示第19号)」に委任したのと同様の方法で、「地理的表示の指定」に係る具体の事項を、「酒類の地理的表示に関する表示基準の取扱いについて(法令解釈通達)〔課酒1-76、課鑑93、平成27年10月30日、一部改正 令和2年5月29日、一部改正 令和3年5月25日 国税庁長官発 国税局長、沖縄国税事務所長、税関長、沖縄地区税関長あて〕」という通知(国税庁の用語では「法令解釈通達」)に再委任しております。 - 酒類の地理的表示の指定の要件の概要
- 酒類の地理的表示に関する表示基準を定める件(平成27年10月30日国税庁告示第19号)における表示基準第2項を再掲します。
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酒類の地理的表示に関する表示基準
(地理的表示の指定)
2 国税庁長官は、酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であり、かつ、その酒類の特性を維持するための管理が行われていると認められるときには、次の各号に掲げる事項(以下「生産基準」という。)、名称、産地の範囲及び酒類区分を前項第3号イに掲げる地理的表示として指定することができる。
第1号 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項
第2号 酒類の原料及び製法に関する事項
第3号 酒類の特性を維持するための管理に関する事項
第4号 酒類の品目に関する事項
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この「酒類の地理的表示に関する表示基準第2項」のなかでのポイント、すなわち、「酒類の地理的表示の指定の要件」は何かというと、次の2項目となります。
まず、酒類の地理的表示に関する表示基準第2項の前段部分の二行ほどを次に抽出します。
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酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であり、かつ、その酒類の特性を維持するための管理が行われていると認められるとき
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ここで、上記の文章を二つに分け、それぞれに①②を付けます。
(1)酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確で
(2)その酒類の特性を維持するための管理が行われている
更にそれぞれ文末を整えれば、指定の要件は次のようになります。
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酒類の地理的表示の指定の要件
(1)酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
(2)その酒類の特性を維持するための管理が行われていること
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実はこの二つの要件は、「酒類の地理的表示に関する表示基準の取扱いについて(法令解釈通達)〔課酒1-76、課鑑93、平成27年10月30日、一部改正 令和2年5月29日、一部改正 令和3年5月25日 国税庁長官発 国税局長、沖縄国税事務所長、税関長、沖縄地区税関長あて〕」という通知(国税庁の用語では「法令解釈通達」)に記されています。
この法令解釈通達(課酒1-76、課鑑93、平成27年10月30日)を読み解くと、申請にあたってのポイント(酒類の地理的表示の指定の要件及びその具体的内容)が見えてまいります。
酒類の地理的表示の指定の要件及びその具体的内容(概要)
(1) 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
①酒類の特性があり、それが確立していること
②酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられること
③酒類の原料・製法等が明確であること
(2) その酒類の特性を維持するための管理が行われていること
①一定の基準を満たす管理機関が設置されており、地理的表示を使用する酒類が、生産基準で示す酒類の特性を有していること
②一定の基準を満たす管理機関が設置されており、地理的表示を使用する酒類が、生産基準で示す原料・製法に準拠して製造されていること
事項から、酒類もの地理的表示の指定の要件概論に移ります。
- 酒類の地理的表示の指定の要件各論
- 前項に引き続き、酒類の地理的表示の指定の要件について、やや詳しくご紹介します。
酒類の地理的表示の指定の要件及びその具体的内容(概要)
(1) 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
①酒類の特性があり、それが確立していること
②酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられること
③酒類の原料・製法等が明確であること
(2) その酒類の特性を維持するための管理が行われていること
①一定の基準を満たす管理機関が設置されており、地理的表示を使用する酒類が、生産基準で示す酒類の特性を有していること
②一定の基準を満たす管理機関が設置されており、地理的表示を使用する酒類が、生産基準で示す原料・製法に準拠して製造されていること
それでは、やや詳しく見てまいります。酒類の地理的表示の指定の要件は、
(1)酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
(2)その酒類の特性を維持するための管理が行われていること
の二つでした。
1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性が明確であること
(1) 酒類の特性があり、それが確立していること
イ 酒類の特性があること
(イ) 品質について
(ロ) 社会的評価について
ロ 酒類の特性が確立していること
(2) 酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられること
イ 基本的な考え方
〇「酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられる」
酒類の特性とその産地の間に繋がり(因果関係)が認められることであって、その産地の自然的要因や人的要因によって酒類の特性が形成されていることをいう。
〇「自然的要因」
産地の風土のことであり、地形(標高、傾斜等)、地質、土壌、気候(気温、降水量、日照等)等が考えられる。
〇「人的要因」
産地で人により育まれ伝承されている製法等のノウハウのことであり、発明、技法、教育伝承方法、歴史等が考えられる。
〇すなわち、単に独自の原料・製法によって製造されているだけでは不十分であり、酒類の特性が産地と結びついていることが必要である。
ロ 酒類区分ごとの考え方(清酒のみご紹介します。)
(イ) ぶどう酒(省略)
(ロ)清酒
〇自然的要因
当該産地の地質等が醸造用水の水質(硬度)にどのような影響を与えているか、気象条件がもろみの発酵温度にどのように影響を与えているかなど
〇人的要因
当該産地で開発された酵母の使用や、杜氏による伝承技術がどのように清酒の特性を形成しているかなど
〇米
単に他の地域から高品質な品種の米を購入して原料としているだけでは、産地に主として帰せられる特性とは言えない。((注)原文では、「米」の項目はたてられず、「単に他の地域から・・」から文章が始まっています。)
(ハ)蒸留酒(省略)
ハ 産地の範囲について(省略)
(3)酒類の原料・製法等が明確であること
イ ぶどう酒(省略)
ロ 清酒
(イ)原料
〇原料の米及び米こうじとして、日本国で収穫された米を使用していること
〇産地内で採水した水を使用していること
〇米、米こうじ及び水以外の原料の使用を認める場合には、使用することのできる当該原料の重量の上限値を設定すること
(注) 一般的に、米、米こうじ及び水以外の原料の使用量は少ない方が酒類と産地との繋がりが明確になると考えられる。
(ロ)製法
〇産地内で醸造が行われていること
〇酒類の特性上、製造工程において貯蔵が必要なものについては、産地内で貯蔵が行われていること
ハ 蒸留酒(省略)
ニ その他の酒類(省略)
2 その酒類の特性を維持するための管理が行われていること
「酒類の特性を維持するための管理」が行われていると認めるためには、一定の基準を満たす管理機関が設置されており、地理的表示を使用する酒類が、
〇生産基準で示す酒類の特性を有していること
〇生産基準で示す原料・製法に準拠して製造されていること
について、管理機関により継続的に確認が行われていることをいう。
以下略