学習指導要領

 

学習指導要領の根拠
 学習指導要領の根拠となるとみられる法令に、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第52条、第74条、第84条がある。第52条は小学校の教育課程について規定しており、第74条が中学校、第84条が高等学校のそれである。第52条では次のようになっている。

第52条 小学校の教育課程については、この節に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする。(アンダーラインは筆者による。)

 「別に公示する」とあるのが、「文部科学省告示」のこととなる。
 すると、「告示」の位置付け、ないし「効果」について考えてみる必要が出てくる。
文部科学大臣が公示する教育課程の基準

 おそらく、読者各位が、初等中等教育、高等教育(高等専門学校、大学学部、大学院)で学んできたこととしては、「法律、政令、省令、告示」などの関係ではなかったか。これらの関係を、国家行政組織法により再度確認してみることとする。
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国家行政組織法(昭和23年法律第120号)
(行政機関の長の権限)
第10条 各省大臣、各委員会の委員長及び各庁の長官は、その機関の事務を統括し、職員の服務について、これを統督する。
第11条 各省大臣は、主任の行政事務について、法律又は政令の制定、改正又は廃止を必要と認めるときは、案をそなえて、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めなければならない。
第12条 各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。
2 各外局の長は、その機関の所掌事務について、それぞれ主任の各省大臣に対し、案をそなえて、省令を発することを求めることができる。
3 省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。
第13条(略)
第14条 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。
2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。
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つまり、公権力の強制性の順に並べると、
法律>政令>命令(省令)>告示>訓令・通達
となる。
 一般的には、告示以下の行為は、当該行政庁管下職員のみが拘束される(告示等を発した〇〇省の地方支分部局(内閣府設置法第43 条及び第57条、国家行政組織法第9条、国の各省本省の地方出先機関のこと。)、いわば事務要領であるので、直接には国民を拘束しないものと考えられている。
 そこで学習指導要領の法的効果については、昭和の時代から多様な見解が披歴されてきた。

学習指導要領の法的効果
 学習指導要領の法的効果について、代表的な判例を2つご紹介する。
(1) 「建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反事件」最高裁判所大法廷判決,昭和51年5月21日 -----------------------------------------------------------
裁判要旨
四、昭和三六年当時の中学校学習指導要領(昭和三三年文部省告示第八一号)は、全体としてみた場合、中学校における教育課程に関し、教育の機会均等の確保及び全国的な一定水準の維持の目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な遵守基準を設定したものとして、有効である。
(裁判所>裁判例検索,(online), available from
< https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57016>,(accessed 2024-08-01))
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(2) 「行政処分取消事件」最高裁判所第一小法廷判決,平成2年1月18日
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裁判要旨
学校教育法五一条、二一条所定の教科書使用義務に違反する授業をしたこと、高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)から逸脱する授業及び考査の出題をしたこと等を理由とする県立高等学校教諭に対する懲戒免職処分は、各違反行為が日常の教科(日本史、地理B)の授業、考査に関して行われたものであつて、教科書使用義務違反の行為は年間を通じて継続的に行われ、右授業等は学習指導要領所定の当該各科目の目標及び内容から著しく逸脱するものであるほか、当時当該高等学校の校内秩序が極端に乱れた状態にあり、当該教諭には直前に争議行為参加による懲戒処分歴があるなど判示の事実関係の下においては、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。
(裁判所>裁判例検索,(online), available from
< https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52713>,(accessed 2024-08-01))
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 「小学校学習指導要領解説総則編」(文部科学省,2017年6月)では、学習指導要領の法的効果について、次のように示している。
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(3) 学習指導要領
 学校教育法第33条及び学校教育法施行規則第52条の規定に基づいて,文部科学大臣は小学校学習指導要領を告示という形式で定めている。学校教育法施行規則第52条が「小学校の教育課程については,この節に定めるもののほか,教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする」と示しているように,学習指導要領は,小学校教育について一定の水準を確保するために法令に基づいて国が定めた教育課程の基準であるので,各学校の教育課程の編成及び実施に当たっては,これに従わなければならないものである。
 前述のとおり,学習指導要領は「基準性」を有することから,学習指導要領に示している内容は,全ての児童に対して確実に指導しなければならないものであると同時に,児童の学習状況などその実態等に応じて必要がある場合には,各学校の判断により,学習指導要領に示していない内容を加えて指導することも可能である・・・(以下略)
(「小学校学習指導要領解説総則編」文部科学省,2017年6月,p.16.)
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 このように、学習指導要領は「国が定めた教育課程の基準」ととらえることができる。と同時に、「児童の学習状況などその実態等に応じて必要がある場合には,各学校の判断により,学習指導要領に示していない内容を加えて指導することも可能である」としているので、この学習指導要領は、どうしても確実に指導してほしい内容に絞ったものであるということになる。
 しかしながら、「学習指導要領解説」とは何者であるのか、国(文部科学省)の見解を検討して本項の結びとする。
学習指導要領解説の位置付け
 「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総則編」の「まえがき」によると、「本書(小学校学習指導要領解説総則編)は、大綱的な基準である学習指導要領の記述の意味や解釈などの詳細について説明するために、文部科学省が作成するものであり」としている(「まえがき」『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 総則編』文部科学省,2017-7.)。これは、言い換えると、学習指導要領解説は、学習指導要領の記述の意味や解釈等の詳細について、教育委員会や教員等に対し説明するため、文部科学省が作成した著作物」ということになる。
 こうしてみると、学習指導要領解説は、公権力の強制性の順に並べた、「法律>政令>命令(省令)>告示>訓令・通達」には当てはまりそうにないが、学校現場の実務上は必要不可欠のものといえるかもしれない。
 事実、学習指導要領解説よりも詳しく解説された資料が文部科学省ウェブサイトから入手することができる。その一例が、「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版)」である。
(https://www.mext.go.jp/content/210330-mxt_kyoiku01-000013731_09.pdf)
 この参考資料の作成意図を、文部科学省は次のように述べている。
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 「本資料の内容は作成時点での情報を前提にしたものであり、今後政府の関係施策や各学校における教育の情報化の進展等の状況を踏まえ、適宜更新していく予定です。また、関連の具体的な事例についても、文部科学省として情報収集・発信を進めていきたいと考えています。
 各設置者や学校におかれましては、本資料を参考に「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を図り、学習指導要領の着実な実施につなげていただけますと幸甚です。」(「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版)」文部科学省初等中等教育局教育課程課,2021-3,p.2.)
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 なお、現行法制下での学習指導要領等は、もっぱら教育委員会及び管下の公立学校についてのものであり、首長部局管下の私学については、この限りではない。
教育基本法が定める教育行政の性格
 非権力的な「指導、助言又は援助」という行為は、教育基本法第16条第1項「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」という規定からも、その精神をうかがうことができる(アンダーラインは筆者が加筆)。